West症候群(点頭てんかん)について
West症候群の症状
こんな動きを繰り返していませんか?
- 頭を「コクン、コクン」と前に倒す動作を繰り返す
- 両腕を「バンザイ」するような動きを何度も繰り返す
- 肩をすくめるような動きを10-30秒おきに繰り返す
- 体を「ギュッ」と硬くする動作が群発する
発達の変化はありませんか?
- 以前より笑わなくなった
- 目が合いにくくなった
- できていたことができなくなった(首のすわり、寝返りなど)
- 反応が鈍くなった
これらの症状がある場合は、動画を撮影して小児科の受診をおすすめします。
West症候群の典型的な発作の様子
発作の特徴
- 頭の前屈(点頭): 頭を「コクン」と前に倒す動作
- 上下肢を振り上げる: 両腕を「バンザイ」するような動作
- 連続して続く: 10-30秒間隔で何度も繰り返す
このような動作が群発する場合は、すぐに小児科を受診してください。
West症候群とは
West症候群(ウエスト症候群・点頭てんかん)は、主に生後3か月から1歳未満の赤ちゃんに起こる特殊な「てんかん」です。
発症時期
生後3-12か月
(ピークは4-7か月)
発症頻度
出生1,000人に約0.3-0.5人
男女比
やや男児に多い傾向
なぜ「点頭てんかん」と呼ばれるのか
発作時に頭を前に倒す「点頭(うなずき)」のような動作が特徴的であることから、この名前がつけられました。ただし、すべての赤ちゃんに頭を倒す動作が見られるわけではありません。
症状の見分け方
典型的なスパズム(発作)の特徴
動作の特徴
- 頭を前に倒す「コクン」という動作
- 両腕を上げる「バンザイ」のような動作
- 肩をすくめる動作
- 体全体を硬くする「ギュッ」とする動作
発作のパターン
- 1回の発作は1-2秒程度
- 5-30秒間隔で繰り返す(群発)
- 一連の群発が5-100回程度続く
- 寝起きや眠る前に起こりやすい
発達の変化
初期の変化
- 笑顔が少なくなる
- 視線が合いにくくなる
- 反応が鈍くなる
- ぐずりやすくなる
進行した場合
- 首のすわりが悪くなる
- 寝返りができなくなる
- お座りができなくなる
- 声を出さなくなる
⚠️ 見逃されやすい初期症状
最初の頃は1日に1-2回しか起こらず、「しゃっくり」や「くせ」と間違われることがよくあります。少しでも気になる動きがあれば、スマートフォンで動画を撮影して専門医に相談することをお勧めします。
動画で見る発作の特徴
参考動画の見方
上記の動画では、実際のWest症候群(乳児スパズム)の発作の様子をご覧いただけます。以下の点にご注意ください:
- 動画はあくまで参考です
- お子さんによって症状は様々です
- 動画と同じでなくても West症候群の可能性はあります
- 心配な場合は必ず専門医にご相談ください
動画撮影のコツ
撮影のタイミング
寝起きや眠る前が発作が起こりやすい時間帯です
撮影の長さ
群発する様子がわかるよう、2-3分程度撮影してください
撮影の角度
全身が写るような角度で撮影してください
記録事項
日時、持続時間、発作前後の様子をメモしてください
正常な動きとの区別
West症候群の発作 vs 正常な動き
モロー反射(正常)
- 音や振動などの刺激で起こる
- 両腕を広げて抱きつくような動作
- 1回で終わり、繰り返さない
- 生後4-5か月で自然に消失
West症候群の発作
- 特に刺激がなくても起こる
- 「バンザイ」や体を硬くする動作
- 規則的に何度も繰り返す
- 時間とともに頻度が増える
しゃっくり(正常)
- 横隔膜の規則的な収縮
- 「ヒック、ヒック」という音
- 体の動きは軽微
- 数分から数十分で自然に止まる
West症候群の発作
- 筋肉の強い収縮
- 音はしない(無音性)
- 全身の明らかな動き
- 群発して長時間続く
判断に迷った時は
「様子を見ましょう」と言われても心配な場合は、セカンドオピニオンを求めることも大切です。
診断について
West症候群の特徴的な脳波所見
当院で記録したWest症候群患者の脳波所見
脳波の特徴
- 高振幅で不規則な波形: 正常な脳波リズムが失われている
- 全般性の異常: 脳全体にわたって異常な電気活動が見られる
- 持続性の異常: 覚醒時に常に観察される特徴的なパターン
- 診断の決め手: この脳波パターンがWest症候群診断の重要な根拠となる
また、本疾患は脳波検査により診断も否定もできます(他の多くのてんかんと異なり必ず脳波異常が見られます)ので、治療開始を遅らせないためにも、疑う症状がみられた場合は可能な限り早く脳波検査を行うことが重要です。当院では、2023年4月の開業以来、現在までに2名の新規発症のWest症候群を診断しています。
診断に必要な検査
脳波検査(最重要)
特徴的な「ヒプスアリスミア」という異常な脳波パターンを確認します。West症候群の診断に欠かせない検査です。
痛み:なし(電極を頭に貼るだけ)
睡眠薬:必要に応じて使用
MRI検査
脳の構造的な異常がないかを調べます。原因の特定や治療方針の決定に重要です。
鎮静:通常必要
造影剤:場合により使用
血液検査・尿検査
代謝異常や感染症など、West症候群の原因となる疾患がないかを調べます。
目的:治療可能な原因の発見
診断基準
以下の3つの特徴のうち、2つ以上が認められる場合にWest症候群と診断されます:
1. 特徴的な発作(スパズム)
頭を前に倒したり、腕を上げたりする発作が群発する
2. 異常脳波(ヒプスアリスミア)
脳波で混沌とした異常なパターンが見られる
3. 発達の停滞・退行
発達が止まったり、できていたことができなくなる
治療について
治療の流れ
Step 1: 受診
症状に気づいたらすぐに小児科を受診
Step 2: 検査・診断
脳波検査などで確定診断
Step 3: 治療開始
脳波検査でWest症候群が疑われた場合は、
・国立精神・神経医療研究センター
・聖マリアンナ医科大学病院
・神奈川県立こども医療センターなど
専門的な治療ができる施設に迅速にご紹介致します。
抗てんかん薬の内服、ACTH療法またはビガバトリンによる治療
Step 4: 経過観察
定期的な脳波検査と発達評価
治療の目標
短期目標
- 発作の完全停止
- 脳波の正常化
- 副作用の最小化
長期目標
- 正常な発達の回復
- 他のてんかんへの移行防止
- 生活の質の向上
予後について
予後に影響する要因
予後が良い場合の特徴
- 発症前の発達が正常
- 原因不明(潜因性)
- 早期の治療開始
- 治療への良好な反応
- 脳波の早期正常化
注意が必要な場合
- 明らかな基礎疾患がある
- 発症前から発達の遅れがある
- 治療開始が遅れた
- 治療への反応が不良
- 脳波異常が持続
治療結果の統計
長期的な見通し
治療後6か月-1年
発作の抑制効果と発達の回復を評価します。多くの場合、この時期に治療効果が明らかになります。
幼児期(2-5歳)
言語発達や社会性の発達を重点的にサポートします。療育サービスの活用が重要です。
学童期以降
学習面でのサポートや将来の自立に向けた支援を継続します。個々の特性に応じた教育環境を整えます。
ご家族へのサポート
医療サポート
- 専門医による定期フォロー
小児神経専門医による継続的な診療 - 多職種チームでの連携
医師、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士との協力 - 緊急時対応
24時間相談体制と緊急時の対応方法の指導 - 薬物管理
抗てんかん薬の適切な管理と副作用のモニタリング
療育・教育サポート
- 療育サービス
0-3歳児対象の発達支援プログラム - 児童発達支援
未就学児向けの個別・集団療育 - 特別支援教育
お子さんの特性に応じた教育環境の整備 - 放課後等デイサービス
学童期の療育継続支援
経済的サポート
- 小児慢性特定疾病医療費助成
医療費の自己負担軽減 - 障害児福祉手当
月額約15,000円の支給 - 特別児童扶養手当
1級:月額約53,000円、2級:約35,000円 - 各種福祉サービス
居宅介護、短期入所、日中一時支援等
家族・コミュニティサポート
- 患者家族会
同じ境遇の家族との情報交換と心の支え - 兄弟姉妹サポート
兄弟姉妹への心理的支援とケア - 家族カウンセリング
専門カウンセラーによる心理支援 - レスパイトケア
一時的な介護負担軽減サービス
ご家族ができること
日常生活でのケア
- 規則正しい生活リズムの維持
- 十分な睡眠時間の確保
- 発作記録の継続
- 薬の適切な管理
発達支援
- お子さんのペースに合わせた関わり
- 小さな成長を見つけて褒める
- 感覚遊びや運動遊びの取り入れ
- 専門家との連携を密にする
受診のタイミング
🚨 今すぐ受診が必要
- 群発する発作が初めて出現した
- 発作の回数や頻度が急に増えた
- 発作が5分以上持続する
- 呼吸困難を伴う発作
- 発熱と発作が同時にある
- 意識レベルの明らかな低下
⏰ できるだけ早期の受診を
- 気になる動きを繰り返している
- 発達の停滞や退行を感じる
- 以前より反応が鈍くなった
- 笑顔が少なくなった
- 視線が合いにくくなった
受診前の準備
必須の準備
- ✅ 症状の動画撮影(2-3分程度)
- ✅ 母子手帳の持参
- ✅ 発作記録(日時、頻度、持続時間)
- ✅ 服用中の薬がある場合はお薬手帳
あると参考になる情報
- 妊娠・出産時の状況
- これまでの発達の様子
- 家族のてんかん歴
- 過去の検査結果
当院での診療について
小児神経専門医による診療
日本小児神経学会専門医が、豊富な経験をもとに診断・治療方針を決定します。
迅速な検査対応
緊急性が高いと判断した場合は、可能な限り早期に脳波検査を実施します。
連携医療体制
診断確定後は速やかに専門治療施設にご紹介し、治療後は当院でフォローします。
家族サポート
医療制度や療育サービスについても詳しくご説明し、適切な支援につなげます。
よくある質問
適切な治療により、約70-80%で発作の改善が期待できます。また、約20-25%のお子さんで正常な発達を達成することができます。特に基礎疾患がない場合は、より良好な予後が期待できます。早期診断・早期治療が予後改善の鍵となります。
ACTH療法の場合、約1か月の入院治療が基本となります。治療効果は通常2週間以内に現れ、発作が止まった後も脳波の正常化を確認するため、数か月から数年間の経過観察が必要です。個人差がありますが、多くの場合1-2年で治療の評価が可能です。
お子さんによって様々ですが、早期に適切な治療を受けた場合、正常な発達を示すお子さんも少なくありません。発達に遅れがある場合でも、療育支援により大きな成長が期待できます。重要なのは、お子さんの持つ可能性を信じて、適切なサポートを継続することです。
West症候群の多くは遺伝性ではありません。ただし、一部に遺伝性の疾患が原因となっている場合があります。遺伝の可能性については、原因となる疾患の種類により異なるため、主治医にご相談ください。必要に応じて遺伝カウンセリングをご案内することも可能です。
基本的には予防接種は可能ですが、治療中の場合は主治医との相談が必要です。特にACTH療法中や免疫抑制状態の場合は、生ワクチンの接種時期を調整する必要があります。発作がコントロールされている状態であれば、通常通り予防接種を受けることができます。
発作がコントロールされていれば、多くの場合、保育園や幼稚園に通うことができます。発達に応じて、一般的な園での生活や、療育的支援のある園を選択することになります。園との十分な情報共有と、緊急時の対応方法の説明が重要です。
医療費助成制度(小児慢性特定疾病)、障害児福祉手当、特別児童扶養手当などの経済的支援があります。また、早期療育サービス、児童発達支援、家族会での情報交換やピアサポートなど、様々な支援を受けることができます。当院でも制度利用のお手伝いをいたします。
もちろん可能です。West症候群は専門性の高い疾患のため、複数の専門医の意見を聞くことは大切です。当院でもセカンドオピニオンのための紹介状や検査データの提供を行っています。また、他院での診断についてのセカンドオピニオンも承っています。
West症候群に関するご相談・ご予約について
お子さんの症状が気になる場合は、お早めにご相談ください。当院では小児神経学会専門医が丁寧に診察いたします。
受診時のお願い
- 気になる症状の動画撮影をお願いします
- 母子手帳をご持参ください
- 服用中のお薬がある場合はお薬手帳をお持ちください
- 問診票への事前入力にご協力ください